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午前2時すこし過ぎ

「--は……っ」
 ゆっくりと起き上がる。何か夢の中で訴えていたような気がしたが、それは紫煙のように消えていく。夢は現に残らない。空気に消えて無かったことになる。
「……ん」
 まとめることをしていない髪が、体中に纏わり付いている。少しばかり汗を掻いているようだった。紫はゆっくりと息を吐く。熱っぽいのは寝ていたからだろう。寝起きの時が一番嫌いだった。身体の融通がきかず、ぼんやりとした頭の中で、何かを思い出いだしそうだからだ。
「二時間も、寝て……ないじゃないか」
 じわじわと滲むように覚醒する意識で紫は電子時計の時刻を確認する。深夜二時を過ぎているところだった。人間としての生業を行ったところだ。書き物業なせいか、〆切に追われることはある。自営業でも選択すればよかったか。と考えては見るものの、曖昧に生きた方が都合がいいので、我慢する。
 暗い部屋はついこの間、なぜかやってきた浅生が適当に掃除をしていった。綺麗にまとまって床にはなにもない。あの朴念仁はぼんやりと日々を過ごすくせに、きれい好きである。意味がないとおもうのだが、気になるようではある。放っておいてる。気にしなくとも紫が生活すればすぐに元に戻る。書物、羊皮紙、衣服で埋まるだろう。
「……は」
 目覚めの悪い中で身を起こしたまま、ぼんやりとしていた。空腹を感じる。だが、それは紫にとっては意味を成さない。常にある枯渇感が入り交じっていて何をどれだけ食べても満たされないのだ。だから意味がない。
「ふふ……」
 なぜか、自虐的な笑みがこぼれる。覚えていない。人の頃。記憶をたどることはできないのに、感覚だけが残っている。

空腹。ただひたすらの。

 最初それが何か解らなくて、ありとあらゆるものを食べた。他が、訝しむほどの物も食べたが満たされない。少しずつ解ったのは、人間を、誰かを、言葉を交わし、心の底を見る瞬間だけ満たされた。が、それだけだった。すぐに空腹に見舞われる。満たされない。

 あまりに目が醒めず、紫はぼんやりとしたままベッドに仰向けに倒れる。暗がりの天井と消えたままの電灯を眺めていた。暑くて毛布から身をさらけ出す。寝るときに服は着ない主義だ。全裸だが空調は整っているので寒くはなかった。むき出しの腹を撫でる。太ってはいないのでなだらかですべらやかな感覚、それすらも、目覚めのこの間には違和感を感じる。


私の身体はこうだっけ。

 子どものような感情でそう思う。そう思う理由はやはり分からない。捉えられない記憶の底に答えはあるのかも知れない。かつての自分、存在したのかも確認のできない。遙か奥底の過去。1000年は経っていなかったと思ったがどうだったかすら曖昧だった。意識の水面下、深夜の奥で、眠れる記憶。

 

紫は少し投げやりに思う「捨ててしまえればいいのに」唇が綻んだ。