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ロフトの一番上に悠々と腰掛けているサスケが茶色の耳を撫でつつ遠い目をしている。ぷらぷら揺れている両足がなんともいえない余裕をみせていて、下にいるリリィはそれをみながら不思議におもった。
「サスケは、高いところ怖くないの?」
下でサスケを眺めているリリィをそれこそ不思議な顔でサスケは目を合わせた。
「なにが怖いっていうのさ」
「怖いじゃないか、落ちたら痛いんだぞ」
リリィはサスケの当然そうな顔に眉をひそめて信じられない。といった声で答えた。三日前に階段から滑って落ちたばかりである。そのときの怖さをおもいだして背筋がぞっとした。
「ちゃんと受け身をとれば痛くないよ」
ちいさな足をぷらぷらさせながら、ロフトの端でサスケが寝転がる。そのいまにも落ちそうな絶妙なバランスに、下にいるリリィは自分のことよりもいっそうはらはらしていた。とはいえ、サスケの余裕は嘘も大げさなものでもないのはリリィにもわかっている。わかっているけどみていて怖いのだ。
「……受け身ってどうやるのさ」
「えー? こうやって、腰をひねって下りるんだよ」
試しにリリィは腰をひねってみた。だが、うまいことひねることができず、その場をくるりと回っただけで受け身のような動作にならない。もう一度試してみたが、逆回りしただけだった。諦めて床に座り込む。大きなため息をつくと寝そべった。
「じゃあさ、リリィはなんで外が好きなのさ」
今度はサスケが不思議そうに質問を投げかけてきた。質問の内容にどう答えようか考えつつも、日頃のサスケの態度をみていると、たしかに、外が好きそうな感じはしない。
「楽しいよ。いっぱい人がいるし、お天気いいと気持ちいいよ」
ほくほくしながら楽しさを表現して、リリィはめいいっぱいアピールした。どうせなら、サスケと一緒に外へ散歩に出てみたかった。だが、とうのサスケは眠たげな顔をちょこっとだけ浮かせて生返事をしただけで、訊いてきたわりに応えを受け取る態度がなってないのでリリィはすこしむっとした。
「ぇえ……お日様は風のないところであたるのが気持ちいいよ」
ほんとに眠いのか口元がおぼつかない。結局つられてリリィは大きな欠伸をした。部屋は夜で暖かくないが、寒くもない。過ごしやすいせいか、一度眠気が湧くと一気に眠くなっていく。
「サスケもたまにお外にでればいいんだよ。いっぱい人がいてかわいがってくれるし、友だちもいっぱいできるよ」
近所のポンドだったら、身体が小さいからサスケとも遊べるかもしれない。みんなで一緒に遊べたらいいなと考えるとリリィは嬉しくてしょうがなかった。だが、サスケのほうはまったく嬉しそうでもなんでもなく、眠そうにしているだけだ。
「やだよう。外は怖い兄ちゃんが多いもん」
「仲良くしてねっていえば仲良くしてくれるよ」
「リリィとは違うもん、外の兄ちゃんたちは怖いんだぞ、なわばりなわばりって」
自分とサスケは違うから、外の事情もいろいろと違うのかもしれない。残念だが、サスケが危ない目に遭うのだけはリリィも嬉しくないので、この話はおしまいだな。と会話をやめた。サスケもたいして気にしていないようで大きな欠伸をしている。
「……美代子さんまだかな」
「そのうち帰ってくるよ……」
うたた寝をしているなかでリリィが小さくつぶやくのを、サスケがうとうとと返している。時計が十を巡ってくるりと回って半分を過ぎているのはわかる。いつもだったらもうちょっとで帰ってくる。と、ちょうど外で音がした。
「帰ってきた!」
リリィがぱっと立ち上がり玄関に向かって走っていく。それに反応するように、ドアが大きな音を立てて開いた。同じようにサスケが反応して、ひらりとロフトから華麗に着地する。
「リリィ、サスケ、ただいま!」
すこし疲れていながらも明るい声が家に響く。
「わん」
「にゃー」
二匹のそれぞれの声がそれに反応するように部屋に響いた。