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登録No.000

頬に感じる衝撃ををオレは潔く受け取った。
「バカ」
 冷たい言葉が投げかけられて、頬を張った張本人は風のように去っていった。ひとしきりの沈黙のあと、自然にでたのは大きなため息だった。引き攣れるような頬の痛みに理不尽だとわかっていても苛立つ。
「……いて」
 顔を上げた時にはもう姿はみえなかった。幾人かの通行人が目をそらすように足早に去っていく。みてみぬふりなのか、ほんとうにみていなかったのかいろいろ考え、苦笑いをした。

 別れを決めたのは自分。正直ついていくのに疲れたから。自然消滅を狙わずきちんと口に出しただけでも立派だとおもって欲しいよ。と誰もエライといってくれそうにない自論を心に繰り広げるが当たり前のように賞賛はない。そんなの当たり前だ。と親友には呆れられた。
「くそ」
 ケイタイをだして、広げる。彼女の番号を呼びだし、削除のメニューを起動させた。
 簡単な動作で、彼女とは終わる。いや、いろいろなところはすべて知っている。どこが好き、なにが好き、どんな言葉が一番好きか。
 知っていたし、いうのも好きだった。彼女が好きなところへ連れて行く、好きな物を与え、好きな言葉をつぶやいた。
 それがいつの間にか瓦解して、間逆の気持ちになっていく。
 なぜ、連れて行かなきゃいけない。なぜ、与えなきゃいけない。なぜ、いわなきゃいけない。
 好きだったことが、いつの間にか嫌いになった。
好きだった相手だったはずなのに、いつの間にか鬱陶しくなった。
自分が悪いといってしまえばそれまでで、相手も悪いといってしまうのは簡単だった。
刺激が足らないわけじゃない。マンネリが嫌いなわけじゃない。
けれど、ズレたすべてを元に戻すことはできなくて、ズレたまま関係を続けるほどオレは大人じゃなかっただけだ。

「……ちくしょ」
 ケイタイはそのまま閉じてポケットに入れる。彼女が消えた方角を少しだけ眺めて、逆方向へ向かっていく。
 後ろめたさに後ろを向いて、いっそう後ろに歩いていく。消せない情報だけが自分に残った。