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「この日のために結構がんばったんだからな!」
机の上に今日返されたものを机の上に伏せて目の前にいる幼なじみの尚貴(なおたか)に祐次(ゆうじ)は迫った。学校帰りの制服姿でゲームをしていた尚貴は机の音に驚いたようだったが、すぐに約束を思い出したらしい、愛想のいい顔をいっそう緩ませて笑った。
「ホントに何でも言うこと聞く?」
「マジだって!」
「なんでも?」
いらっとしてきたところで尚貴がゲームをテーブルに置くとカバンを漁り出す。春休み前の期末テストの返却は今日あったばかりだ。中間のテストはとんとんだった。ゲーム的なことが好きな祐次が賭けのようなものを提案した。条件は、何でも言うことを聞く。祐次はすこしだけ期待していた。尚貴が先ほどまで忘れていた感じだったからだ。
「おれだって、たまには勝ちたい」
悔しげにぽつりとつぶやくと、尚貴が柔らかく笑いかけてきて、祐次は少々目をそらした。小さい頃から一緒にいるが、いつも大事なところで祐次は負ける。体格も差があり、ゲームにしろ運動にしろ勝てたためしがない。大きな差で抜かされるわけではないので、劣等感のような大きなものは抱いてはいない。ただ、三回に一回ぐらいはいいんじゃないかと思っている。
「はいはい、負けず嫌い。んじゃまあ、見せ合いますか」
「よしこい!」
そういって、一枚ずつめくるたび、祐次は悔しさを重ねるハメになった。
「うあああ。なんだよ!!」
最後のテスト、数学、七十五点に対して、尚貴の数学は八〇点、どれもこれも、大きな差はないものの微妙な差で負けていた。うなだれる祐次に対して余裕の尚貴は祐次の答案を感心した顔で眺めていた。
「でもすごいじゃん。いつも半分ぐらいなのに」
「うるせー、なおだって、前はそうだったじゃん……」
いくらがんばっても勝ててないなら意味がない。ため息混じりに赤点を免れて教師からも驚かれたのでそこはいいと思っておく。努力させたかったら、何でも尚貴くんと比べればいいのね。といってたのは腹立たしかったが。
「くそう……。現国とか、一問しか違ってない……」
「やー、がんばったもんね。こっちも」
そうとは思えない態度でにこにこしている尚貴にむっとするもため息しか出ない。あのとき気が散ったしなあとか、さまようのは勉強時のことだ。
「ちえ……」
机の上に散っていたテストをまとめるとカバンの中へしまい込む。勝てないよなあと、尚貴を眺めながらため息が出た。長身に大人びた顔、愛想のいい顔は誰にでも笑顔を向けて人当たりも悪くない。自分と言えばちびで、小学生に間違われることもある。
「あー、そういやさ、尚貴、また告白されたんだって?」
「え? ああ、断ったけど」
さらりと言われて、祐次はまたため息が出た。長身で物腰も柔らかい尚貴はモテる。すでに五人には告白されてそれをすべて断っているのだから、祐次は逆にもったいないという気しかしない。とはいえ、断る理由を聞いている祐次にはそんなふうにはいえなかった。
「……好きな子いるんだよな」
「うん」
その話になると、どうしても祐次は声が沈む。そんな相手がいたことに、祐次は言われるまで気づかなかったし、口ぶりからして尚貴の片思いはだいぶ長いことが分かった。何ともいえない気持ちになって小さくため息をつくと、机を挟んだ位置にいた尚貴が傍らにいて思い切りびっくりした。
「わあ、なに!?」
「いや、言うこと聞いてくれんでしょ?」
「え、ああ」
思わぬ近さに生返事をして一歩下がる。近くに来たわりに余り考えていなかったのか、尚貴が間近で考え始めて祐次は何を言われるのか半ば緊張していた。無理難題でなければいいけれど、なんでもやる、といったことを撤回するのだけはいやだった。
「うーん。手始めに、ご主人様っていってもらおうかな」
「はあ!?」
唐突に何を言うのかとおもって、変な声が出た。だが、尚貴はまんざらでもないらしい。あいかわらずの整った顔を笑顔にして、笑いかけてくる。退かないところをみると、半分本気らしい。
「なんでも、聞いてくれるっていった」
「い、いったけど!」
じゃあ、といってまるで胸に迎えるように腕を広げて待機する尚貴に祐次は退きようがなかった。このままうやむやにしてしまうには、待ちわびられている時点で逃げようがない。
「……う、あ……ご、ご主人様」
「聞こえない~」
そういって近づいてくる尚貴を牽制しながらも、拒みきれずに祐次は小さくうつむく。なんでこんなこと言わなきゃいけないんだというのと同時に、言い出しっぺは自分で、賭に負けたのは自分。結局、逃げるすべを失って祐次はぐっと堪えた。口で言うだけである。
「ご主人様! ご命令をどうぞ!」
「……。あー」
口からめいっぱいそれっぽいことを行ってやると、一瞬尚貴がぽかんとした。言えって言ったのはそっちなのにそんな顔をされて、祐次はむっとした。尚貴は考え込む様にしばらく視線を部屋に迷わせる。やり過ぎたのかと祐次は異常に恥ずかしくなった。もう言わない! と心に決める。
「祐次、何でもする?」
「……何度も言わせんな! するって!」
「ほんとに?」
らちがあかなく二、三度頷くと、尚貴が少しだけ逡巡したように、目線をさまよわせた後息を呑んだ。そんな雰囲気の尚貴に祐次も気圧されて、言葉を待つしかない。
「……でもな……」
「なんだよ! はっきりしろよ!」
「キスして」
「え?」
「……キス」
「はぁ?」
突拍子もないことを言われて、祐次は思わず変な声を上げた。戸惑いも大きく、頷くわけにもいかずにわたわたする。慌てた祐次に逃げ口を遮るように、手を捕まれて反射的に祐次はびくついた。
「何でも聞くっていった」
「い、いったけど! き、キスなんて好きな奴にしてもらえよ!!」
想い相手がいるならなおさらだと想うままつぶやいて気がついたら、床に倒されていた。上に乗るようにのぞき込まれ、あまりの状況にぽかんとしたまま、上乗りになった尚貴を見つめてしまった。
「そういこという?」
「だ、だって、いるんだろ」
「うん。いる」
きっぱりという尚貴になぜか、腹が立つ。好きな相手がいるなら大事にすべきじゃないのか、そういうことは。と思いながらも、何も言えない。
「祐次がしてくれないなら、オレからする」
「まてまてまて!!」
それでは賭の意味がない。と思うなり祐次は迫り来る尚貴の身体を突っぱねた。押し倒された状況から何とか抜け出し、相手を見据える。
「……するから」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
そういうと尚貴が身体を起こして向き合うように座り込んだ。そして、なにを考えたのかベッドの上に座り込むと傍らを叩く。真意を計りかねて首をかしげていると、来てといわれた。逃げると思われたくなくて従う。
「オレの上に乗って、んでして」
「あ?」
「してくれるんでしょ」
きりりとした眼で見返されて、祐次は何も言えなかった。たっぷり逡巡したあげく、言われたとおりベッドに座った尚貴を跨いで彼の膝に座る。近い、幼なじみといえど、この距離はない近さではっきりと落ち着かない。
「あ、ありえねえ」
「そうかな、前は結構、くっついたりしてたじゃん」
「そ、そりゃ、小学校とかはさー……尚貴でけえし」
頭二つ分ほど身長の違うので、祐次は高いところだなんだと、尚貴にせがんで抱き上げてもらったり、肩車をしてもらったりしていたことはある。昔のことだ。中学にあがってから、そうしないと届かない事実は祐次にとっては体格の幼さを痛感するようになり、敬遠するようになった。一緒にいるのよりあからさまでいやだった。
「まあ、そんなもんか」
そういって、見上げてくる尚貴を見つめていつもと違う構図に、体勢の目的を思い出し恥ずかしくなる。だが、その恥ずかしさは顔にでも出ていたのか、同じタイミングで尚貴も思い出したのか、意味もなく見つめ合ってしまった。
「……な、なんだよ」
「して」
そういうわりに、目をつぶらない尚貴に祐次は恥ずかしさが消えない。じっと見つめてくる視線がちくちくすらする。
「目つぶれよ!!」
「やだ、逃げるかもしんないじゃん」
「逃げない!」
そういうものの目をつぶる気配のない尚貴に、祐次は苛立ち半分、追い詰められたの半分で覚悟を決めた。よく考えたらしたこともないキスをなぜ、幼なじみとしなきゃいけないのか。しかも相手は好きな人がいるとはっきりいっているのにだ。
「くそ」
ちいさくつぶやいて、ほとんど勢いでぶつけるように唇をつけた。触れるか否かの距離で思わず目をつぶってしまったからか、少し唇から外れたのは感触で分かった。だが、離れようとした体勢から、顔が動かせなくなって祐次は焦った。頬と後頭部を手で押さえられ、軽くずれた唇を追うように吸い付かれる。
ちゅ、と吸い上げる音がして、祐次は腹下あたりがかっとなるのを感じた。離れようとしたが、必要以上に強い手が顔を固定して離れることすら許されない。その癖、尚貴の唇が噛むようにうごめいて、祐次はその感触にくらくらした。
「ん! なおっ」
じたばたして、やっと少しだけ手を緩まれる。少しだけ離れることができたが、それでも鼻先数センチで止められてしまった。整った顔が、見たこともない真顔で見つめていて驚いた。表情のない尚貴を、祐次は見たことなかった。
「なん、だよ。おまえ」
「一回って、いってないよ」
無理強いににた言い方に、ないがしろにされた気がして泣きそうになった。祐次はこみ上げる涙を何とか飲み込む。だが、それ以上に、そんな祐次に気づいたのか、真顔だった尚貴の顔が、悲しそうに歪んで、祐次は泣きたいのはこっちだと少々思った。
「す、好きな奴いるんだろ」
「うん」
「なんで、こんな命令すんだよ」
「……したかったから」
そんな風に言われて、祐次は身体の力が抜ける。こんなふざけた奴だっけとじわじわ悲しくなる。耐えようがなくて堪えきれずに涙があふれた。とっさに拭おうとした手を押さえられ、抗議するまもなく抱きすくめられた。むちゃくちゃなことをいった本人なのに、そんな相手をぼんやりと温かいとおもった。
「祐次、かわいいな」
「オレに言うなよ……す、好きな奴にいえよ」
「うん。そのつもり」
いつの間に決めたのだか、とぼやっと思う。気がついたらしなだれかかっていた。キスの衝動と、抵抗に疲れて脱力していた。ゆっくりと、背中をさすられその手が妙に冷たい。と感じて服越しで撫でられていないことに気づく。
「望み薄、とおもってたけど、そうでもなさそうだし」
「何が……、ってか、なにを」
冷たい手に触れられて、どことなくぞわぞわする。服中でぬくぬくしていた体温を奪われて落ち着かない。意識がそちらに向かっていて、耳元でささやく尚貴の声がどこか遠くに聞こえていた。
「祐次、好きだよ」
「……だから、オレじゃなくて」
「祐次だって、好きなんだよ」
肩口から顔を上げる。どことなく寂しそうな、つらそうな表情の尚貴と目があった。何でこんな顔するんだろうと考えがよぎって、言葉が浸透するのにだいぶかかった。言われたことを理解するのと同時に、見上げてくる尚貴の目があった。柔らかくほほえむ顔はいつものそれだが、受け取る祐次の方は受け止め方が違ってしまった。
「は?」
「祐次が好き」
そういうと、今度はしっかり抱き留めてくる。柔らかく、いつでも引っ込められるようにと遠慮げだった背中に回した手が、ぎゅっと身体を抱いてくる。抵抗しようもないまま、頭の中で言葉が反響する。
「なにが? なんで?」
「なんでかしらない、気づいたらそうだったし、でも、祐次もでしょ」
「な、なんで!?」
「幼なじみの好きな人なんて、不機嫌になるようなことじゃないじゃん」
「え、ふ、不機嫌になんか、なってねえ!」
「嘘だ。何で泣いたの」
「だって、だって、す、好きな奴がいるのに、こんな」
「まんざらじゃないみたいだからいい」
言い分を遮るようにまた、顔が間近に近づいてきた。祐次はなぜか避けられなかった。ぽかんとしたままの唇に吸い付かれて、呼吸が詰まる。
「んー!」
叫んでも遅かった。柔らかく温かい唇が触れながらにしてもぞもぞ動く。背中に回された腕が、背骨や肩甲骨を探るように肌上を優しく滑るのがくっきり感じて、祐次は何が起こっているのか理解できなかった。ただ、濡れた唇の柔らかさが、気持ちいいとおもってしまった。
「やめっ」
「やめない~。かわいい。祐次」
拒もうと距離を取った瞬間、とろりとした尚貴の顔を見てしまい、否定の言葉も罵倒の言葉も飲み込んでしまった。さすがに寂しそうな顔はしていない、だが、その笑顔にどこか甘いとろりとした酔いのようなものを感じて、祐次はどきりとしてしまった。さっきから見たことのない表情ばかりで戸惑う。
「祐次、顔赤い」
「ううう、るさい。あふ」
口答えを口で遮られ、柔らかくぬるりと熱いものが口の中に入り込んでそれが舌だと気づいたときには、口の中をまさぐられていた。くちゅくちゅと音がして、耳をふさぎたくなる。
「ふ、んん……」
思考と熱を奪われて、気がついたら服がたくし上げられて、背中は丸見えだった。指先が舌の愛撫と連動するかのように弄られている祐次には敏感に感じられてしまう。前もたくし上げられて、まだ冷たい指先が、胸元の乳首を掠めて身体がひくついた。
「ひゃ……」
「あ、乳首感じるんだ。ああ、かわいいなあ」
鯉のようにぱくぱくと息継ぎをしている祐次の口を銜えるように重ねてくる。指先が執拗に胸元を揉み、一点が硬くなっていくのが分かる。男なのに! という声は口に吸われて唾液と一緒に飲み込まれてしまった。めまいがするのに、突き放せない。ちらりとみた、目前の幼なじみは、うれしそうな顔で、頬を赤くしながらむさぼるように舐めてくる。瞳がとろりとしていて、目尻の赤さに興奮を感じ取って祐次はまともに顔が見られなくなってしまった。自分の心臓の音が耳障りなぐらいにくっきり聞こえる。
「んん。祐次、好き。感じてる」
「んあっ、やだっ」
硬くなった乳首を強く摘まれ、祐次は思わず身体をひくつかせた。腰が動いて、必然的に尚貴の身体にこすりつけてしまう。相手の硬くなった下半身を感じて、ざわざわする。だが、自分も同じだ。直接刺激されていないのに勃ちかけて、じわりと下着を濡らしていくのが分かる。
「あー、祐次、美味しそう」
「え、あっ、ひゃうっ」
のけぞった胸に尚貴が顔を埋め赤く硬くなった片胸のそれを口に含んだ。ころころと舌先で転がされ、落ちそうになるぐらい身体がのけぞる。びりびりとしびれたような感覚が身体を走り抜け、身体は震えるのにどこかもの足らないさを感じてしまう。追い詰められるように、ちゅっと舌で撫でられ、唾液を垂らされ、濡れたそれを拭うように舐められる。そのたびに祐次は反応してしまって、思考がぶちぶちとキレそうだった。
「やあっ……あうっ、やめっ、いたいっ」
「ん……ほんとに?」
くちゅくちゅと音を立てられて、もはや堪えきれず、いえるだけの声を上げる。だが、やめるどころか、尚貴は歯を立てて軽く噛んできて、祐次は痛みよりも、弾けるような感覚で息切れしてしまった。荒い吐息が、そこにかかるたびに、相手の興奮が知れる。さらに、見上げるように伺ってくる顔は、ぎらぎらしていて、いつも落ち着いて優しい態度の尚貴はみじんもない。執拗で必死さがあり、こんな面があるとはおもっていなかった。
「はあっ……んああ」
「ん……、祐次、ね。お願い」
「んん……」
ぼおっとする、祐次を抱き直す、尚貴に力の籠もらない祐次はそのまま従う。しなだれてだっこされたまま耳元でささやかれた。少し熱がこもりどことなく低くなった声音が、耳奥に響いてそれだけでぞくぞくする。聞いたことない感情がこもった声。本心からの欲求と欲情そのものが沈んだ声に、祐次はぼんやりしながらどきりとした。色っぽい声とはこんな声なのかと妙にしみじみした。だから、次に言われた要求を理解するのはだいぶ時間がかかった。
「ね、オレの舐めて?」
「ふあ……」
オレのと問いかける前に、擦りあげられるように彼が身動きする。下半身に触れた感覚にこれかとどこか納得して、促されるままずるずると、尚貴の膝から降りて床に座る。目の前に座ったままの尚貴が今度は祐次を見下ろしていた。頬を赤らめ、ほとんど肩で息をするように一目で分かる興奮具合に、祐次はなぜか心の奥で喜んだ。だが、ずるっと目の前に出されたそれに一瞬に、理性が戻ってくる。
「えっ」
「祐次、舐めて」
「む、りっんん」
余裕のないらしい尚貴がぐっと身体を前に寄せてきて、避ける暇もなく顔にすりつけられてしまった。むっとした熱を感じて、嫌悪よりも興奮した。頭がわいてる。どこか冷静な自分が考えるが、気がついたらおずおずとそれを手で握っていた。赤黒く血の巡ったペニスは思っているよりも大きく、だが、がまがましさはなかった。つるりとした切っ先から滴がたまり、先走りがとろりとこぼれる。零れる。と思い反射的に口を寄せてしまった。苦みと塩気の入り交じった味が広がる。舐めちゃったと考えた後で頭上から息を呑む声がして、祐次は自分がした行為など、どうでもよくなってしまった。
「ん……あっ」
「ん、ん……はふ」
口に納めるにはぎりぎりの大きさで、歯を当てないように口に入れるのは難しい。気がついたらしがみつくように前屈みになって、吸い付いていた。優しく、髪を撫でられてそれそのものはたわいのない行為なはずなのに、口に含んだそれが性的さを感じさせてしまう。苦しくないように、なるべく行為を抑えているのが手先の流れで分かってしまう。震えた尚貴の手が頭をゆるゆると撫でていくのは、気持ちがよかった。
「祐次の、口の中熱い……」
「は……」
苦しくなって口からはみ出す。じゅるりと飲みきれない唾液がべったりとペニスに張り付き、ただでさえ、いやらしいそれはてらてら光っていっそう怪しかった。前屈みになった尚貴の目と合って、気持ちよさそうに緩んだ瞳にぞくぞくした。尚貴の顔だけで欲情してる自身に驚きながらも、どことなく喜んでると自分自身を感じ取る。小さな優越感。自分がしたことが相手に繋がってる。
「ゆう、エロい……も、もうちょっと舐めて、指で擦って」
「う、うん」
言われるがまま、もういちど顔を寄せ今度はためらいなく口にした。ねちねちした音を立てて舐ると喉がなる。他人のものをいじるのは初めてで、どうしても指先はたどたどしくなった。それでも、口に含んだ尚貴のペニスが、ぐう。っと跳ねて、喜んでいるのがすぐにわかると、祐次は愛撫に熱中した。
「んん、はっ……んん」
ぐちゅぐちゅと、舌で撫でつけると引っかき回すような音がする。口にあふれる先走りと唾液も飲み込む余裕がなくて、べたべたとペニスにぬりつけるしかない。苦しさはどうしてもあって、涙もこぼれ、自分が何をしているのか分からないのに、指先と舌は動きを止めようがなかった。時折、尚貴が腰を浮かせ、突くように腰を動かすのがつらかった。でもやめるのはしゃくだった。
「んぐ……」
「あっ、やば……ちょ、ちょっとまって」
余裕のない声が頭上で聞こえ、半ば無理矢理頭を離された。ずるりと口から抜けるそれを惜しげに見つめていた自分に気づいて、祐次は腹そこがかっと熱くなる。熱中していたことを自覚する。唇からそこへ繋がる粘ついたものがやってたことを自覚させられる。夢中になってた。と気づいておろおろする。
「あー……」
恥ずかしさに慌てていたら尚貴が優しく頭を撫でていく。少し離れておもむろに尚貴がベッド脇に手を突っ込んだ。あからさまな液のはいった容器を見せられて、うれしさ半分、恐怖半分で震えてしまう。なぜそんなものがあったのかと思うものの問うほど余裕がなかった。
「祐次、服脱いで、さっきみたいに、オレの上乗れる?」
「ん……す、る」
言われるがまま、ゆるゆるとシャツとズボンを脱ぎ捨てる。目端に尚貴も着ていたものを脱いでいくのが見えた。艶めかしい気がして、目をそらす。昨日までそんな風に見たことなかったはずなのに、相手の身体を性的に見てると痛感した。もたついた形でズボンと下着を脱いだとき、自分のそれが硬く且つどろどろに濡れていて、恥ずかしかった。
尚貴がボトルからべとべとした液体を手にとって、尚貴を跨ぐようにして中腰になった祐次の尻にそれを塗りたくる。最初つめたくて、ぞっとしたそれはぐちゃぐちゃと練るような行為でぬくんでいき、粘液になって祐次の尻を濡らしていく。
「あーっ、あ、やば、ぬるぬるすっる」
「うあ。なんか、いやらしいな、これ」
臀部を力一杯揉みし抱かれ、普通だったら痛いのだろうが、塗りたくられたそれと感じ入っている身体は何でも性感に変換していった。少しでも力を抜くと腰が落ちてしまうので、ベッドに座った形の尚貴にしがみつき腰を落とさないように気をつける。指先がすぼみに当たりくりくりと、入り口を弄くられるのに嫌悪はもうなかった。びくびくと祐次の勃起したペニスが尚貴の腹を時折、撫でているのが分かる。優しい感覚は刺激には物足りない。
「祐次」
「ん……ちゅ、んん。あふ、はっ」
促されるまま舌を差しだし、めいいっぱい吸われてから、さっきまで彼のものを舐めていたことに気づいた。それを告げて止められるのがいやで、気づかれない様にねだるように吸い付いていく。たまに目を開けて間近にある尚貴の楽しそうに自分を堪能する顔を見て興奮する。尚貴が喜んでると考えると追い立てるように動いてしまう。そうするとすぐに腹先を祐次のそれが掠めて、気がついたら握り込まれて擦り上げられた。
「んふ……あっやっう」
「触ってなかったのにすっごい濡れてる」
告げられてびくんと身体が反応した。そんなつもりなかったんだと睨み付けると、逆にほほえまれ、優しくキスされた。そのまま、舌を嬲られて唇と指先と触れたところからかき回すような音がする。音に震えていると尻を撫でていた指先が窄みを押し広げるように動いていく。
「どろどろになってるから、大丈夫だとおもうけど、痛かったら言って」
「んん」
声が出せなくてただ呻いて頷いた。少し強めに、ペニスを弄りあげられさっき祐次が彼のペニスをそうしたような口ぶりで舌を啜られた。幾重にも重ねられて、訳が分からなくなる。気がついたら腰が揺れていて声を上げていた。
「んう。あん、ああっ」
「あ、すっご、指入っちゃった」
ぐちゅぐちゅという音がさらに増えて、祐次はわけもわからないまま触れたところをもっと触れてほしいと強請った。腰を揺らして強く抱きつく。細くて長い指が中を弄り苦しいのに物足りない。
「なお。あ、ああ、やだ。ああっ、とまんないっ」
欲求が追いつかず、落下するような怖さを感じてしがみつく。前を弄っていた指が離れてほんの少しそれが緩むが、後ろへ移動しただけだった。ねちねちと言う音がして、もっとリアルに何をされているか分かっていく。熱を帯びた内壁を押し広げて出て行く。
「あー、あーっ」
「もう……ちょっと」
びくんと身体が反応する。ぶるぶると震えてしまう。指先がいつの間にか二本に増えていたばらばらとかき回されて、祐次は泣いてしまう。
「ひ、ぅんっ、うーっ」
首を左右に振ってこれ以上はムリと伝えるとぐっと抱き寄せられた。止めてもらえるのと一瞬考え、もっと大きな熱いものが、指先が弄り回したそこに当てられたのに気づく。怖いとおもったが、引いたときに見え尚貴の顔に魅入った。泣きそうでつらそうな表情に、飢えた目が祐次を捉えた。
「ゆっくり……する、から」
祐次はうなずくだけだった。ぐっと腰を誘導され、あてがわれたそれが、おぼつかない入り口を押し広げる。力まないように息をついて浅く喘いでいると尚貴が荒々しく顔を引き寄せ、舌をむさぼられる。
「んむ。ん、うん」
ぐちゅぐちゅと突くように行き来をされて、徐々に尚貴を受け入れていくのが分かった。熱くて苦しいのに、やっときたとどこかで思っている。祐次自身が欲していたんだと気づくと、強い欲求に引き合う熱さと苦しさが根本まで飲み込めて、息をつく。
「……うっあ」
「あー。あつ……」
身じろぎするたび引きちぎられそうな感覚がするのに、祐次は否定したくなかった。しばらくはそのままでキスだけしていた。甘く触れるだけのキスに戻って、一からする。くちゅくちゅと舌を絡め合うぐらいになって、尚貴が指先で胸元を弄り始めた。
「んっ、んんっ」
「ああ、すっごい、ここも立ってる。かわいい」
「なお、動い、て……」
不安げな顔をした尚貴を追い込むようにねだった祐次の方が軽く動いた。ずるりとずれる感覚に身体が強ばるが、それ以上にその刺激でふやけたような恍惚に埋もれかけた尚貴の顔を見て、逆に身体は緩んだ。
「あ!! や、やばいから、ゆう。ちょっと」
「う……動いてって」
ゆったりと腰が触れると気持ちよさが分かってきた。そうなると祐次の腰はためらいどころか止めどころを失って動いてしまう。腰を上げ、沈めると甘く蕩ける。うまく身体が動かないのに、止まらない。耐えかねたのか尚貴が突き上げるように動き出して、祐次は今まで以上の熱を感じて身体が震えた。
「あ!! あふっ」
「つ。祐次」
息を詰めるようにした尚貴が、ぐいと祐次を横倒しにする。座っていた体勢から横倒しになってついでに挿っていたものがずるりとぬけ、衝動に祐次はめまいがした。息をつくまもなく、動かれて仰向けに寝かされる。抜けかけたペニスがすぐに中へ入り込み、密着する形になった。女性のように組み敷かれるが、それが何よりうれしかった。つながりが深く、肌が触れる。不安定な体勢よりも相手を感じた。
「あーっ! あ、ああんっ」
「ゆ、ゆうじっ」
ぐちぐちと腰のつながりが音を立てて動くたび、身体が跳ねた。熱くて震え、時折怖くなって、抱き寄せるとどちらともなく舌を絡ませぬるぬると堪能する。ずるりと抜ける感覚が不安を煽るのに、押し込まれるとほっとする。弓なりに身体が跳ねて、それを押さえ込むように尚貴が抱きすくめる。首筋を噛まれ、耳に掛かる吐息が熱くて震えた。
「だめだ。も、い、いくっ」
「んん!! あああ、うん、なお、なおっ」
抱き返し、腰が小刻みに揺れるまま彼のそれを感じた。自分の中でふくらみがまし、ひくついているのが分かる。互いの身体の間で、祐次のペニスが腹を濡らすのがわかった。擦れて痛いはずなのに、もっとそれがほしかった。
「祐次、好き」
「なお。ああっう」
好きという声が出る前に、ふくらんだ自分が弾けるような感覚がある。きゅう。と彼のものを誘い込むように身体が痙攣した。じわりと滲んだ熱が中で広がり染み渡る。めいいっぱい、尚貴の肩を抱いた。
「……は……あう」
「大丈夫?」
答える気力はなくうなずく。後始末もそこそこに、二人で裸体のまま抱き合っていた。祐次は自分の事態がいまいち把握しきれていない。命令のまましたがったのか、告白された流れでしたのか、もうどっちが発端だったのかわからなくて、考える気力もなかった。ただ、離れがたくて、もぞもぞする。
「尚貴」
「ん?」
「だっこ」
子供じみた言い方だが、どういえばいいか分からなかった。いつものやわらかな笑顔で尚貴がすり寄ってくる。行為の間は見たことのない表情ばかりで不安だった祐次はほっとした。ほっとしたついでに告げる。
「……たぶん。オレも、尚貴のこと」
「うん」
くるくると毛布で互いの身体を包み。潜り込む。相手の体温が気持ちいい。けだるさのまま、祐次は目をつぶった。なんだか、ほっとしていた。