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春の味

その奇妙な形の骨を見ると、私は無駄に悩む。
湧き上がる奇妙な感情に揺れる。
苦しいような、楽しいような、居心地が良いのか悪いのかそれすらわからない感情に揺れ動く。

すこしばかり、陽気が良くなってきて、すごしやすい日々が少々続いた月のある日
私は電車の中でシャツの少年をみた。その少年は出入口の自動ドアの近くで凭れながらたっていた。
顔は覚えていない。さらりとした髪は日に照って薄茶色だった。首が異様に細かった。
その少年の白いシャツの隙間から覗く奇妙な形のその骨は、頭と体を繋げて少しばかり形を歪めていた。
多分、少年が横を向いていたからだろう。私はそこに釘付けになった。
少年は、私に気づかず、通り過ぎる景色を眺めていた。

目が離せない。電車が大きく揺れ、彼が頭を揺らすたびに骨が筋を皮をほのかに伸ばし形がゆがむ。
そのたびに胸がどきりと揺れ動き、眠そうに首をかしげるたびに私は骨が気になった。
やがて、彼はふと顔を上げ、駅に停車した電車から出て行った。
私は追うほどの度胸はなく、諦めきれるほど潔くもなかった。
立つことをやめ、空いた席に座り目をつぶった。歪む鎖骨を思い浮かべ、奇妙な感情にゆらゆらと身をゆだねる。

夢の中で奇妙な骨が目の前にあった。シャツの襟が目の端に映る。感情の波もなく、私はそれに縋りつき齧りつき、音を立てて貪り喰った。

甘い、春の味がした。