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秘密秘密

「本当にいいの?」
 控えめな声でクルダがカインに囁いた。図書室の奥にある閉架室の棚の隙間で身を寄せ合うようにして二人は潜んでいる。
「いいよ」
壁とクルダに挟まれるような形で抱かれているカインは、クルダの耳に口元を寄せて囁いた。クルダの身体が反応し、触れあった胸元から心音が早くなるのが聞こえた。困ったような切ない顔で、見つめてくる彼にカインは淡く微笑み首筋をはんだ。
「っ……」
 クルダが息をのむのを感じながら、カインは噛んでいた首筋を今度は舌で舐め上げた。耳の下で舐め、肌を吸い上げるとクルダが肩に添えていたカインの手を取って壁に押しつけてくる。顔を赤らめたクルダが力を押さえるように震えながら顔を寄せた。
「……ん」
 押し付けるように唇を合わせ、吸い上げられる。息苦しさに唇を開くと舌が入りこんできた。ぬるりとした唾液にカインは震えた。背筋に甘い痺れが走って、膝が折れそうになる。早まる鼓動を押さえるように、カインも咥内を探る舌を吸い上げた。
「ん……ぁっは……」
 苦しさに時折、口を離しながらも何度も口づけした。くちゅくちゅと音を立てて、音の間際に喘ぐ。仕草と音で、互いに興奮しあうのが解る。そのうちクルダが押さえていた手の力が緩み、カインは変わりに彼の首筋に自由になった腕を絡めた。いっそう二人の距離が近く。火照り始めた体温を感じ取りながら、互いが着ている制服のシャツが触れて布ずれの音がした。熱くて、息を吸うとカビと紙の匂いが鼻についてなおのこと、カインをぞくりとさせた。らしい場所がなかったとはいえ、なんて場所で、絡み合ってるんだろう。人が来ないとは限らないのだ。遠くでチャイムの音がする。3時限目の始業のチャイムだ。
「あっ……はっ、クルダ、いいの? 授業」
 口づけの合間に、カインは問うた。答えは分かっているし、たとえ思った通りの答えではなくても、離すつもりはない。自分はかなり高ぶっているのだ。クルダも同じように高ぶってる。途中で放棄するほど、冷静ではないはずだ。
「秘術基本学は、把握してるから、平気……って、ここまでして、そういうこというなよ」
 笑みを浮かべながらクルダが、カインを覗き込んだ。カインも同じように微笑む。思った通りの答えだ。
「言ってみただけだよ。……僕だってこのまま放り出されるのはヤダ」
 くすくす笑い合いながら見つめ合っているとクルダが顔を寄せて首筋に唇を寄せた、肌を吸い上げながら、掻き抱いてくる。互いの身体が重なり合い。クルダの反応が触れあうだけで判った。戯れにカインは足を動かして太ももでそこをなぞる。
「……っはっ、ちょ、カインッ……」
「キスしかしてないよ? クルダ」
 意地悪を込めてカインが笑いかけると、クルダは恥ずかしそうに俯いた。誘うように乱れたブレザーの下へ手を差し伸べる、背をなぞりながらシャツを引き出して、直に背を触った。クルダの背は汗をかいていた。湿った感触だが、カインは嫌悪より興奮を感じた。身体が震える。クルダもカインの所作を真似るように、シャツの中へ手を挿し入れた。汗ばんだ手のひらが、カインの痩せた腹を撫で、胸を触る。
「あ……ま、って。ボタン外す……」
 カインは興奮で震える手でボタンを外し胸をはだけた。クルダが舐めるように視線を動かしてるのがなんだかおかしい。目が真剣で場にそぐわない。術式の公式テストでも同じような目をしていたと、カインはぼんやり思い出す。
 そんな間に、指先がまた胸に触れた。硬くなった突起を指先で撫でられて身体が萎縮する。そのカインの反応にクルダも同じような反応をしていた。顔が屈む。生温かい、濡れた感触がして、舐め上げられたのが判った。まだだと、カインは興奮にふるえながら心の底で思った。

「あっ、はっぁ……」
「っつ……」
 ちゅ、という吸い上げる音がひどく響いた、着乱れた服の幾つかは傍らで丸められていた。クルダが壁に背を預けているカインに伏す様な形になっている。カインのズボンだけが緩められ、そこにクルダが顔を寄せていた。
「……ひゃ……熱……」
 カインのものをクルダが舌を使って刺激した。熱い舌と濡れた感覚が皮をなぞるようにして幾度も行き来する。舐め上げられるたびに下から込み上げるような感覚に身体に力がはいる。先端まで舐められ、その後、口に含まれ、厭らしい音を立てて吸われる。
「あっあ、はっんん……」
「気持ち、いいか?」
 探るようなクルダの視線と言葉に、カインは淫靡に微笑みながら肯いた。クルダの顔は紅潮して、目が潤んでいる。息が荒く、触れあう肌にそれが掛かって肌がざわつく。ねだるように、クルダが控えめに手を添えていたカインのものがぴくりと動いた。
「や、だ。止めないで、もっと……」
「っ……つ! ……は」
 クルダが妙に息をつめ、ただ添えるだけだった手で握り擦り上げた。カインの意識が一瞬真っ白になる。自然に腰が揺れ、興奮を誘うクルダの手の動きがいっそう激しくなる。
「あっ……んっ! んぅっ……あっ、はっう、やっぁ」
 じゅ、る。とぬめる音が響く、弄ってるほうのクルダの方ですら息をつめながら、興奮しているようだった。カインを握る手に力がこもる。カインが反射的に閉じようとしてしまう足を押さえる手が興奮して震えている。押さえ込む力もかなりこもっている。
「……いっ、あっ」
 クルダが口をはなして、根本から先端に向けて舌を押しつけた。唾液で濡れたそこは指と舌が扱くたびにぐちゅぐちゅと音を立てる。扇情的な光景に、カインは達しそうになった。
「っは……クルダっ、イきそうっ……」
「イって」
 先端を舐めながら、楽しそうにクルダが囁いた。自分のものに顔を寄せ愛しげに舐める姿は、当たり前だがそう見られる光景じゃない。学園一の真面目君。と嗤われるように人からいわれている彼だけに、珍しい姿にカインは新鮮さを感じた。戸惑う仕草をすると、耐えられないほど強く扱かれた。
「ああっ、はっぁあ……っ! んんっ、んー!」
 指先で幹を刺激されながら、空いている手が胸をまさぐりつねった。痛みが走るのと目の前が真っ白になる。カインは声が出るままに達してしまった。震える自分の向こうで、クルダが口に含んだまま、喉を動かして嚥下したのをみた。解放で、身体の力が抜けているのに、その仕草に興奮する。軽く咽せているその姿をぼんやりと見ていると、遠慮がちだが何かを訴えるような目でクルダが見つめてきた。判ってると微笑む。隅で丸めてあったブレザーのポケットから、小瓶を取り出す。口を開けて逆さにすると、粘着質な液体がゆったりと垂れた。ズボンをおろして、手に取った液体を濡れた秘部に塗りつけた。冷たくてどろっとしていて、背筋が凍る。
 クルダがぼんやりとそれを見つめていた。見られていると感じながら、上手く力の入らない指先で、すぼみに触れる。ぬるりとした液体が秘部を緩める。達したばかりなのもあって、そこはすぐに指を飲み込んでいく。かき回すと中が圧迫されて声が出た。
「んあ……」
 寒気ににた感覚が身体を走った。抜きたくなるのをこらえながら中をほぐすようにかき回す。あられもないその姿の向こうでカインのその仕草を凝視しているクルダが見えた。喉が嚥下を繰り返している。顔が赤く、なんだか苦しそうだ。
「クルダ……ぁ」
 ねだるように名前を呼んだ。クルダが呼ばれて身体をびくつかせる。目がカインを見つめて、何か小さくつぶやいた。聞こえはしなかったが、何となく分かる。名前を呼んだのだろう。カインのものは一度イカされたのにまた硬くなっている。それを弄りながら、カインはクルダを誘った。
「クルダ……の、ちょうだい」
「……カインッ……」
 必死な声が震えていた。なんだか、笑えてしまった。

「カイン……へ、平気か?」
 覆い被さるように、クルダが身を詰め寄った。ズボンを脱ぎ捨て互いに何も身にまとっていない。触れあうとクルダの身体が熱くなっていた。指でかき回していた場所に硬い感触が触れる。カインの身体が力を込めてしまい、侵入を拒んだ。
「ん……まって、ゆっくり……」
 ず、っという音がした。カインは力を抜こうと呼吸をふかくしようとするが、クルダの侵入にどうしても息をつめてしまう。なんとか、挿入と呼吸を合わせて痛みを和らげようとするが、呼吸が合わない。クルダが困ったように眉根を寄せる。カインは顔を寄せ、キスをねだった。首に腕を絡ませ、肌を合わせながら、舌も絡める。
「は、んん」
 興奮したクルダの舌の吸い、噛む。クルダが反応するようにカインの舌も同じように吸いながら、甘く噛みながら、身を寄せた。力が抜けたカインの中に、クルダが侵入してくる。
「んぅ……あっ、はっう。苦しっ」
「カイン……っ」
 互いに息をつめた。指よりも圧倒的に大きなものが侵入してくるのにカインはどうしても力を入れてしまう。だが、それ以上に推し進めてくるクルダの方が、強かった。中を抉るように這入ってくる。名を強く呼ばれながら、彼を受け入れた。
「はぁ……う、熱……」
 苦しげにクルダが呟く。苦しいのはカインも同じだが、きつく眉をひそめたクルダの表情にどきりとした。妙に気持ちを煽られる。少しだけ、力を込めると、クルダが苦しげに呻いた。
「動いて……」
「はっ……あ」
 ぎこちない動きで、クルダが動いた。引き連れるような感触が、カインを襲う。けれど、どこかその苦痛も気持ちいいと感じる自分がいた。
「カイン……っ! カインっ……」
 名前を呼ばれながら、揺さぶられる。熱が自分の中をなぞりながら掻き乱すのが気持ちよくてねだるように自分も動く。互いに見つめ合いながら舌を絡め合い。感覚を共有した。圧迫されるような下腹部の感覚も、時折擦り上げられる中の感触に、カインの意識がチカチカととぎれがちになる。
「あっ、あっ、クルダぁ……もっと、ん。平気だから、っう」
 カインがねだったとたん、指先が胸を擦る。興奮して硬くなったそこに指が触れるたび、中を擦られているのとは違う感覚が走る。その興奮をクルダに返すように、唇でクルダの舌を吸い上げた。クルダも同じように吸い上げる。乗るような格好のカインを押し上げるようにクルダが動くと、カインは思わず仰け反った。二人の間で、興奮している自分のものが腹を濡らすのが判る。唇から離れたクルダの唇が、仰け反ったカインの胸を舐め上げ、吸い上げた。
「ひゃっ……あっ!! いっ、ああ……!」
 腰が揺れ、身体に力がこもるたび、クルダの表情が苦しげになる。それを見るたび、カインは煽られ、激しく動いた。クルダの熱がカインの中にある秘所を擦るたび喜んでしまう自分がいた。
「っつ……はっ……く」
 腰を突き上げられ、胸を吸い上げられ、仰け反ったものに手が添えられた。急所を掴まれた無造作にカインの身体がびくつく。身体に力がこもり、クルダが苦しげに声を上げた。彼の行為が激しくなる。突き上げる行為と、握り込まれ扱く手の激しくなった。
「あっ! ああっ! いっ……!! ううっ」
「カイン…………うっ、あ」
 苦しげに彼がカインの名前を呼んだのと、クルダの突き上げる行為でカインとクルダが果てたのはほとんど同時だった。重ね合った身体の間でカインのが震えるのとほぼ同時に身体の中に熱いものが注がれる。あまりの熱さにカインは身体が震えた。

「大丈夫か……?」
「うん……」
 何事もなかったかのように、閉架室は落ち着きを取り戻していた。裸になって抱き合っていたクルダもしわくちゃになった服を着込んで、なんとか形を整えようとしている。心配そうな顔で窺うクルダにまだ、裸のままのカインは肯いた。濡れた身体は拭いたものの、身体が重くて服を着るのが億劫なのだ。
「大丈夫……先、行っていいよ? ここ、鍵締めなきゃだし」
「でも」
 クルダが心配そうに何か告げようとしたとき、遠くでチャイムが鳴っていた。終業のチャイムだ。クルダがその音を聞いてふと閉架室の入り口をみつめた。
「ほら、大丈夫だからね。次、クルダはアーキノ先生んとこでしょ?」
「ああ……」
 アーキノは、錬金術応用授業の教師で、クルダの指導員である。指導員の授業準備は、弟子として入門した者が行うのだ。クルダは準備に出なければいけない。少しばかり考えて、クルダはじゃ、と言って閉架室のドアへ駆けた。
「連絡する……」
 心配そうな顔を向けて戸口を閉めるクルダにカインは微笑みながら肯いた。それを見止めたのかクルダが扉を閉めて去っていく。足音が聞こえなくなるまで見て、カインはふと真顔になった。
「……ふう」
 身じろぎし、さっき中身をつかった小瓶を拾い上げる。瓶の口をなぞりながら、小さく呟くと、カインの身体から、何かが吸い上げられるように小瓶に向かっていった。カインが小瓶に蓋をすると空になっていたはずの小瓶は中身が満たされている。
「……えっへへ、とりあえず、一人~」
 子供のように満面の笑みを浮かべながらカインは小瓶の中身を見つめた。白くトロリとした液体がなみなみと満ちている。その小瓶を布にくるむと、ゆっくり立ち上がり、脱いだ者を着込んだ。戸棚の奥をあさり、雑巾を取り出すと、行為の後を消す。
 鼻歌を歌いながら閉架室を去るカインの名札兼学生証に「誘惑術受講生」と書いてあった。