Novel

6話

 間抜けなことに、放心ついでにうたた寝してしまったようだった。はっとしたときには変なタイムラグを感じていた。やばい意識が落ちていた。ふっと気づいた鼻眼鏡の香水らしき甘い匂いに気づいて目を覚ます。 「だいじょうぶ?」
「ごめ、寝てた」
 なでていた手がとんと背を叩いたのを合図に顔を上げる。
「赤ん坊みたい」
「……よだれ垂らしたかも」
 鼻眼鏡の言葉に仕返しにつぶやく、ちょっと顔をしかめたのにオレはちょっと満足した。涙を流したわけではないけれど、ほんのすこし目が痛い。ごまかすのに顔を拭うとよだれを垂らしたのが本当だったようにみえたらしい、鼻眼鏡がシャツを引っ張って確認していた。勢いよくシャツを引っ張って確認したので、鎖骨が丸みえになる。なぜか、それを見てぎくっとした。さっきかいだ香りの残滓が残っていたような気がする。
「あーびっくりした」
 鼻眼鏡はのんきにシャツによだれがついていなかったことに安心している。ぐっと近づく。灰色の目はこちらではなくてシャツをまじまじとみていて不意に近づいた自分に気づいてはいない。
「鼻眼鏡、香水つけてる?」
「いや?」
 妙な動揺を感じながら聞いてみる。もとより花の香りが店先からしてくる部屋なのにそれとは別に香ってくる気がして気になる。花の匂いなのだろうかと訝しみながら、顔を近づけた。オレが近づいているのに気づいた鼻眼鏡がふっと顔を上げた。ただ、距離感は解らないようで、目をすこし細めている。
「ああ、さっき花を弄っていたから花粉がついたりしたかな」
 思ってもみなかったようで、肩口を嗅ぐように確認していた。軽くひねった首筋がみえる。ほっそりとしているけれどその細さは男そのものだ。わかっているのに触りたい衝動にかられる。何となく気づく。自分が彼を意識しているから敏感になっているのだ。
「なあ」
「ん?」
 声をかける。外れていた視線がこちらを向いた。どきっとする。おそらくオレの顔なんか判別できないだろう。実際、鼻先が触れるほど近くにいるのにその目はしっかり開いている。普通、目前に顔が合ったら怯むなりするだろうに距離感がつかめないからだろう、平然と眺めてきている。どこまで近づけるのか。考えると同時に近づいた。
「う」
 柔らかい。そう思ったとたん止まらない。吸い上げて舐めると鼻眼鏡が身体を強ばらせた。なにをされたかさすがに悟ったらしい。抵抗するように身をよじってくるのを二の腕を掴んで押さえた。ただ、嫌がっているから口だけは離す。
「なにを」
「えーと、なんとなく」
 衝動的だったのは事実で、感情的にはなににも考えてなかったので正直に語る。掴んだ腕はとくに抵抗はされていなかった。呆気にとられて目がうろうろして、なにをされたか察したのか、顔が赤くなった。
「なんとなくって!」
「しょうがないだろ! したくなったからしただけで」
 あまりにも鼻眼鏡が騒ぐのでおもわずこちらも恥ずかしくなって言い返してしまう。その言い訳がまた自分がほとんど衝動的だったことを暴露していて自分でいっていて恥ずかしくなってきてしまった。
「そういうもんじゃないだろうに、だいたい男なんだから」
「性別とか関係ない。ただ、触りたくなったから、触っただけで」
 ああもどかしい。そんな思いが身体を走る。隙を狙ってもう一度口を押さえる。しゃべっている途中につっこんだので歯同士があたった。痛いよりもそれほどまでにくっついているという感触が理性を失わせる。半射的に歯を舐めた。
「んっ」
 人のなま温かい咥内に総毛立つ。気持ち悪いというより自分の中の無茶な衝動が沸いてきて抑えられなくなる。自分の二の腕を鼻眼鏡が握りしめてくる。口を吸い上げながら、床へ伏せる。握られた二の腕にいっそう力をこめられて口を離す。濡れた唇が色っぽく感じる。
「……っあ、なんか……エロい」
「え、え、そうじゃなくて! いきなりはっ」
「え、ああ」
 考えてなかった。やっぱり了解とか得ないとだめなのだろうか。気持ちが先走ってしまっている。
「していい?」
 ただでさえ赤い鼻眼鏡の顔がいっそう赤くなる。慌てているのか恥ずかしいのか口がぱくついていた。
「……き、聞けばいいってもんじゃなくてっ」
 反応はすさまじいがなぜか腕を掴んだままで放すことをしてこない。いいのかな、完全な拒絶の態度をとられないせいで判断に迷う。その迷いの隙に鼻眼鏡の慌てぶりが変にツボをついた。かわいい。そんなことすら平然と感じてからかい混じりに触る。
「嫌なら、突き飛ばしていいから」
「そんなことできるわけないでしょうが」
 それは少なからず好意をもってくれるからとか、年上なりに無碍にできないということなのか、明白にいってもらえないので、都合のいいことばかり考えてしまう。
「はっきり、いってもらえないとわからないよ。オレ」
 口をふさぐとしゃべれないだろうと、唇で首筋に触れる。柔らかくはないけれど張りのある肌が触れるたびにつっと強ばる。唇ばかりで触れるのももどかしく、二の腕を押さえられた手を動かす。拘束はあっさりと外れた。ただ、シャツをなぜか抓むように引かれている。怯えるようなその仕草に、すこし冷静になる。
「本当にいえって」
「……せ、めてゆっくり、触って」
 予想外の言葉に一瞬、呆気にとられ、次の瞬間意識が途切れそうになった。それをなんとか生唾を飲み込んで抑える。目をぎゅっとつぶりながらも顔を赤くしている鼻眼鏡に安心するよりもいっそう触れたくなった。顔を上げて、唇に吸いついた。寸前なにかをもごもごとつぶやいたような気がしたけれど、なにをいっているのか解らなかった。

「ん……っ」
 もごついているのを抑えるように吸う。温かくて柔らかい唇は触れていたくなる。舌先で唇を舐めると鼻眼鏡が身体ごと震えるのがなんだか溜まらなかった。もっといろんなことをしてやりたいという気になる。腕を動かし、胸板に触れる。エプロンをしているのでそんなに体つきは解らないのが悔しくて、脇から手をつっこむ。シャツ越しの身体はすこし薄く感じるが胸板の硬さはやっぱり男だ。そんな胸でも触っていたくて、シャツ越しになで上げながら、唇を舐めた。
「んっあ……」
 声を上げて鼻眼鏡が動く。開いた唇の隙間に衝動的に舌をねじ込んだ。ほんのすこし熱いが触れてどきりとする。逃がすまいと吸い上げた。
「っうんっ……」
 苦しそうに顔を外そうとするくせに、なぜか腕を絡ませて逆にくっついてくる鼻眼鏡に驚きながらも妙な愛おしさを感じて、口ではなくて首筋に口を寄せる。ちゅっと吸いつく音がして、自分がなにをしているかいまさら自覚した。
「なんか、エロいよ。鼻眼鏡」
 耳元でささやくようにつぶやく、からかい半分と自覚した恥ずかしさをごまかすためだった。それに対して鼻眼鏡は真っ赤になったままの顔を向けて泣きそうな目でこちらを睨んでくる。
「っそうしてるのは、君だろっ」
 なにより、オレは触ってない状態なのに鼻眼鏡は首筋に絡めた腕をほどこうとはしてなかった。
「嫌なら離していいんだって」
 そういいながら絡んだままの腕に手を触れる。触れた瞬間鼻眼鏡が震えて拒んだ。さすがに力をこめられてけっこうきつい。すこし身体に力をいれて首にぶら下がった状態の鼻眼鏡を持ち上げ、浮いた背中に手を添える。エプロンの結び目に手が届いたのでついでに引っ張った。あっさりほどけるエプロンの脇から支えていないほうの手を差しいれる。素肌に触れて思いのほか熱気だっている肌にちょっと驚いた。
「えっ、あ、つめたいっ……よ!」
 いれた手を引っこめることはせず、代わりに首に吸いついて、その冷たいといわれた手で腹をまさぐってやった。隆起こそないけれど固い腹をなで上げる。その合間についばむように首から鎖骨に唇を落とした。指先が胸の突起に触れる。位置が解らなくてひっかく形になってしまった。
「いたっ」
「あ、ごめん」
 一言謝ると今度は引っかけないように優しくなで上げる。ほんのすこし絡みついた腕の力が抜け、床にしりもちをついた鼻眼鏡と目が合った。縁が赤い。
「もしかして、人に触られるの初めて?」
 あまりに冷静さを失っている鼻眼鏡に不安になって声をかけた。覗き込むと真っ赤になって口元を押さえる。その手はほんのすこし震えていた。興奮し過ぎて落ち着かないようだった。
「……そうだけどっ」
 肯定に微笑んでみると鼻眼鏡が顔を逸らした。まだ口元を遮っている手を押さえるように掴むと口元から引きはがす。そのまま押さえ込んでやろうと思ったが考えを変えて握った手を口に寄せた。そのまま手の甲へ吸いつく。呆気にとられているような顔を眺めながら指先にあからさまに舌を這わせた。手が強く引かれて離されようとするのを拒んでいたが、愛撫に熱中し過ぎていて予想外の抵抗に手を離してしまった。
「あっ」
 悔しげに声を上げたオレの襟首を鼻眼鏡が掴む。殴られるのかと思ったら引き寄せられて首筋に食いつかれた。
「ちょっと……うあっ」
 歯が食い込み軽い痛みを感じる。だが、そのあとに舌先で噛まれたであろう場所を盛大に舐められて背筋が凍るような感触がした。いくども舐めあげてはついばむように唇を押しつけてくる。そのぎこちない動きにゾクゾクと身体の奥が震える。引き離そうとすると拒むようにシャツをひっ捉まれてしまう。いい音がして首筋のボタンが取れた。ボタンが取れて露わになった胸に鼻眼鏡が顔を寄せる。
「わぁ、くぅ」
 素肌を舐められて、くすぐったいようなもどかしいようななんともいない感触が背を走る。身体の力は抜けるのに、ずっと握ったままだった手には力が入ってしまう。そんな自分に鼻眼鏡が胸に顔を寄せたままつぶやいた。
「自分だって……同じようなもんじゃないか」
 荒い息の合間の嫌味にカチンとくる。確かに、自分も触られることなんてなかったから触られるのには慣れてないが、鼻眼鏡ほどエロくはない。ほんのすこし乱暴に鼻眼鏡の顔をひっつかむとそのまま口に舌をいれ、めいっぱい吸い上げる。ほどけてとれかかっていたエプロンは剥いてしまう。片膝を上げてずるずると後ろに逃げようとする鼻眼鏡の頭を押さえてやった。
「んっん、ふっぁっ……」
 ささやかに与えるスキに鼻眼鏡がほのかに喘ぐ。やばいな、いわれたことから反してやることで仕返ししたつもりだったのに、鼻眼鏡の過敏な反応に自分のほうが翻弄されている。鼻眼鏡は拒むどころかオレの動きが止まる度に自分から唇を押しつけてくる。それに応じながら、シャツのボタンを数個外すと露わになった腹をさっきのようになでた。
「っあわっ」
 先ほどまでの熱っぽい反応と違う声に笑ってしまうとむっとした顔が近づいて唇を吸った。もう一度なでると顔が強ばる。くすぐったいのかもしれないともう一度ツメの腹で柔らかくなでると眉が寄った。その指先のまま胸先を掻く。
「ひぁっ」
 硬くなっていた突起を今度は指の腹で押さえるようにいくども触れる。ぷくりとした感触を楽しむように親指でこねる。それだけでは飽きたらず、シャツをまくし上げて脱がせ、顔を伏せると口に含んだ。吸い上げ舌で突く。
「……あうっ」
 舌の動きにおもしろいように反応する鼻眼鏡の表情をまじまじと眺めてしまう。額に薄く汗をかきこちらを見る余裕はまるでないらしい。薄く汗をかいている額をなでるついでに髪をかきあげた。緩やかなウェーブがかかった金色の髪は思っているより柔らかい。目を伏せてあらぬどこかを見ているようだった。足下をもぞつかせてどことなく落ち着かない鼻眼鏡の顔を覗き込む、だが目はあわせてもらえない。
「平気?」
 先ほどからの荒い息に余裕のない表情が気になって心配になってきた。声をかけて伏せたままの顔を頬に触れて上げさせる。うつろな目がぼんやりとこっちを見ている。だが、もぞもぞと足を動かしては眉根を寄せていた。
「きつい」
 顔が間近になければ聞こえないような声でつぶやいて首を傾げる。なにかしてしまったかと思ったが、先ほどから必要以上にもぞついている足にゆっくり触ってわかった。盛りあがったそこをからかうようになでる。
「脱げばいいじゃん……」
「っ……」
 触れた瞬間目を見開いたが、ほんのすこし指先に力をこめただけでその表情から力が抜ける、苦し紛れな顔だがもうそんな表情をしても止めようとは思わなかった。ズボンの上から形を確かめるようになで上げる。めいっぱい首を振っている鼻眼鏡の頭をなで上げて、自分の腰元を擦りつける。
「あっ」
 触れて気づいたらしい、顔を上げる鼻眼鏡に向かって笑う。自分と同じだと気づいただろう恥ずかしいから告げはしない。押しつけるようにして知らしめる。
「うっあ……」
 やばい、気持ちがいい。声が漏れておもわず呼吸を止めた。おずおずと鼻眼鏡が顔に手を触れてくる。ぼんやりとしかみえないせいだろう唇に触れてからキスをされた。
「なに?」
「いや……えっとズボン、緩めていい?」
 落ち着いたのか言葉尻がはっきりしている。形が解るほど大きくなっているそれではさすがに苦しいだろうとうなずくだが、手を出されたのはオレのベルトだった。
「えっ!?」
 困惑しているうちにバックルが外されてボタンも外される。すこし楽になるのが悔しい。下着越しに弄られそうになって、手首を掴んだ。そのままなにもされないように抱いて押さえる。
「なんでオレのなんだよ」
「い、いや。自分もなんかしたほうがいいのかと」
 恥じらいを残したままで鼻眼鏡がぼやく。なんで悔しそうな顔なのかそれを覗き込みながら握った手首をさする。耐えながらもさする度に小さな抵抗をしていて感じているのが丸わかりだ。
「別にしなくても、触りだしたのはオレのほうだし……」
「……年下にされてばかりじゃなんだか情けないじゃないか」
 なんかしゃべっていたが聞かなかったことにした。ただ、封じるように首筋を噛んでやる。ぐっと抱き寄せ、噛んだあとを舐る。肌を貪りながら鼻眼鏡のベルトを緩めた。手先を中へ差しいれる。硬くなったそれはぴくつきながら反応した。なんか、オレのより大きい気がする。そんな分析は脇に置いて、ぎゅっと力をいれて下着越しに擦ってやる。
「くうぁ」
 鼻眼鏡が声を上げて身をすくませる。だがそれだけではなくて、同じように下着越しに自分をなでられる。感じていて力はこもらないようだがそのせいで些細な感触がくる。
「つうっ、あっ……ちょっと」
 こちらの手がおろそかになって鼻眼鏡が力をこめた。下着越しなのにその布擦れの感触すら気持ちがいい。そのまま委ねていたい気になる。でもそのままなのは悔しいので、止まっていた手を動かしながら、まさぐった。下着の中に手をいれる。
「あっ」
「なあ……いまさらだけど止まらない。から、最後までしていい?」
「いまさら過ぎ!!」
 顔が真っ赤なまま鼻眼鏡が目の前で怒鳴る。それをほんのうるさげに感じながらも、握っているそれを緩やかに扱いた。一気に表情が蕩けて口を閉ざす鼻眼鏡の首筋に吸いつく。
「でさ、どうやるのか知ってる?」
 鼻柱を平手で叩かれた。力は入っていないが、さすがにじんわり痛い。恥じらいながらも真っ赤な顔で睨んでくる鼻眼鏡をじっとみつめていると、徐々にそのひそめた眉を緩んでいき目がうろつく。
「そ、それはえっと……」
「いや、知ってるんだけどね」
 もう一度叩かれた。こういう手合いの情報はどこからだって手に入る。テレビとかでネタにされるのもあるし、概要ぐらいはなんとか。まさか、自分がやるとは考えてなかったが、今、弄りあっている以上のことをしたくてたまらない。我慢がきかなかった。触れたい欲求が触れる度に増す。もっと触りたい。仲良くなりたいという意識はあった。けどこういうつもりじゃなかった。
「するなら、はやくっ……」
 でもそんな考えは押し倒した鼻眼鏡の声で吹き飛んだ。